友人から借りた本で読了した後に自分で買い直した本があります。それが、このエントリで紹介する「イノベーション・オブ・ライフ」です。人生の節目節目で、この本を読み直し、自分の人生を見つめ直したいと思ったのです。

著者のクレイトン・M・クリステンセン博士について

クリステンセン博士のプロフィール

著者のクレイトン・M・クリステンセン博士は1952年、ユタ州ソルトレイクシティ生まれです。ユタ州ということでピンと来た方もいると思いますが、博士は敬虔なモルモン(正式名称:末日聖徒イエス・キリスト教会)教徒です。

博士は、ブリガムヤング大学経済学部、オックスフォード大学経済学部を卒業の後、ハーバード・ビジネススクールでMBAを取得。その後、ボストン コンサルティング グループ(BGC)でコンサルタントを務める。その間、ホワイトハウスのフェローとして、ドリュー・ルイスとエリザベス・ドールの秘書も務めた経験もあります。その後、ハーバード・ビジネススクールで経営管理学修士、経営学博士を取得し、1992年よりハーバード・ビジネススクール教授となる。現在、同大学キム B. クラーク記念講座教授。

クリステンセン博士は「イノベーションのジレンマ」の提唱者

クリステンセン博士の名前を一躍有名にしたのは、世界でベストセラーになったイノベーションのジレンマという論文です。

僕もビジネススクールで学びましたが、なぜ大企業がベンチャー企業に負けてしまうのかその理由が非常に明確に説明されています。

イノベーション・オブ・ライフについて

イノベーション・オブ・ライフが問いかける3つの質問

このイノベーション・オブ・ライフですが、冒頭で3つの質問を読者に投げかけます。そして、この3つの質問への答えが、本の中で解き明かされていきます。その3つの質問とは、次の3つです。

  1. どうしたら幸せで成功するキャリアを歩めるのだろう?
  2. どうすれば、伴侶や家族、親族、親しい友人たちとの関係を揺るぎない幸せのよりどころにできるのだろうか?
  3. どうすれば誠実な人生を送り、罪人にならずにいられるだろう?

質問その1:どうしたら幸せで成功するキャリアを歩めるのか?

どうしたら幸せで成功するキャリアを歩めるのか? ここでいうキャリアとは、職業人生のこと

自分を本当に動機付けしてくれるものを知る

クリステンセン教授が教えてくれるのは、自分を本当に動機付けしてくれるものを理解することが大切だという。多くの人は、目に見えるもの(肩書きや年収、大きい家、車など)に囚われているが、本当に重要なことは自分にとって有意義だと思える機会を常に探し求めることにあるという。

計算と幸運のバランスを取ること

さらに、探す際に大切なことは、計算と幸運のバランスを取ることだという。計算と幸運のバランスとは、言い換えれば、計画と偶然を共に大切にするとも言えると思う。人生生きていると、思いがけない出会いや経験によって、自分の人生が思わぬ方向に進んでいくこともある。それはそれで良しとするべきだという。

実際、僕自身もMBA留学をすることになったのは、様々な思いもしなかった経験の連続のためだ。詳しくは別のエントリで書いているが、ゼミ試験に落ちたことがきっかけで一新塾に入塾し、一新塾からビジネスブレークスルーのバイトを見つけ、MBAの存在を知った。全て偶然の積み重ねだ。

適切に自分の持てる資源を配分する

また計画があるなら、適切に自分の持てる資源を配分することも重要だ。経営資源といえば人、モノ、金だが、個人における資源とは主に時間とお金だろう。

立派な目標はあるのに、目先の欲に負けて十分な時間を投下しない、というのはよくある失敗パターンだ。

例えば僕の場合、MBA留学を決意して受験勉強をしていた二年間は、新婚で子供もいたが、奥さんの了承の元、全ての週末と帰宅後の時間を勉強に当てていました。私費留学だったので、貯金をするために車も買わず、とにかく節約の日々でした。振り返ってみると、あの資源配分は本当に報われたと思います。

質問その2:どうすれば、伴侶や家族、親族、親しい友人たちとの関係を揺るぎない幸せのよりどころにできるか?

幸せで成功するキャリアを築くことは人生の大切な優先事項だ。しかし、クリステンセン教授は、人生の別の側面、プライベートな生活に目を向けるように勧めている。

家族への投資は常に最優先に行われるべき

仕事は投資に対するリターンがすぐに見えるが、家族への投資は、リターンがすぐに見えないところに落とし穴が待っている。逆説的だが、家族との関係がうまくいっていて、投資が必要ないと思う時にこそ、家族への投資を継続しなければならない。

家族との関係を、片付けるべき用事という視点で捉える

片付けるべき用事、というのは相手が本当に必要としているもの、という意味だ。時々、私たちは相手の立場でものを見ることをせず、自分が伝えたいことだけを伝え、自分が与えたいものだけを与えることがある。そうではなく、相手の立場に立って、妻や子供たちが本当に必要だと感じていることを提供することが大切だ。

子育てをアウトソーシングしない

この教訓は実に耳が痛い。親は、塾やピアノ、スポーツ教室など、子供のためにお金を払って色々な習い事をさせることで子育てをしている気になってしまうことがある。つまり、アウトソーシングだ。しかし、親としてこうしたアウトソーシングに頼ってしまうと、子供に大切な価値観を教える機会を失ってしまうかもしれない。

子供に経験という学校に通わせる

子供何かを教える上で、経験とそれによる学びほど重要なものはない。つまり、子供の生きる力を養って上げる必要がある。そのためには、あえて困難な経験を子供にさせ、子供が自ら学べるように助ける必要がある。

家庭の中に文化を作る

経験による学びを効果的に行うには、家族の一貫した文化を築くことが必要。文化が築くことができれば、子供たちは一貫した方針の中で、経験による学びを積み重ねていくことができる。

質問その3:どうしたら罪人にならずにいられるか?

論理的妥協をしない

最後の質問、どうしたら罪人にならずにいられるか、というのはなんとも物騒な質問だが、クリステンセン教授のクラスメイトが、あの有名なエンロン事件の首謀者であるジェフリー・スキリングだと分かれば納得だ。

エンロン事件とは、アメリカのテキサス州に存在した、総合エネルギー取引とITビジネスを行っていた企業にまつわる企業スキャンダルのこと。2000年度年間売上高1,110億ドル(全米第7位)、2001年の社員数21,000名という、全米でも有数の大企業だったが、巨額の不正経理・不正取引による粉飾決算が明るみに出て、2001年12月に破綻したというものです。

ジェフリー・スキリングは当時のCEOで、不正経理・不正取引による粉飾決算を指示したとして逮捕されています。

余談ですが、この時にエンロンの監査を担当していたアーサーアンダーセンは、エンロン事件をきっかけに解散。MBAのクラスメイトにアーサーアンダーセンで働いていた公認会計士のブライアンという人物がいたのだが、彼はこの余波で解雇され、保険会社を経てMBAに来ることになった。

話を戻すと、どんな不正も小さな倫理的な妥協を端に発しています。であれば、最初から妥協をするべきではないのです。

まとめ

簡単なまとめを書いてきましたが、とにかく素晴らしい本です。僕はこの本を、子供たちが就職したら最初のプレゼントとしてあげようと思っています。

また、僕自身も年に数回読み返し、自分が正しいキャリアを築いているか、家族に正しく資源を配分しているか、自問したいと思います。